切腹特区

切腹特区 1話はこちら

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ヒカリがスーパーの袋を手に持ち自宅近くのバス停でバスを降りると、いつもの帰宅部の学生達3人が横に並んで会話しながら歩いていた。互いに挨拶もせずすれ違う。1人の学生が何か言いたそうにしていたがヒカリは構うことなく家路を急いだ。

鍵を挿し込んで回したが、いつもの「ガチャッ」という音がせず手応えもない。「鍵のかけ忘れか」とも思ったが、静かにドアを開けて家の中に入ると耳を澄ませた。物音は全くしない。いつ洗ったか分からない玄関マットの上に食材の入った袋をゆっくり置き、忍び足でそろりそろりと歩いた。1つ1つ部屋を確認していく。ヒカリはいつになく真剣な目つきをしていた。

父親の寝室の扉を静かに開けると、そこに寝ているはずの父親がいなかった。

「まさか」

嫌な予感がする。

「おやじー!」

先程と打って変わって大きな声を出し、ドタバタと浴室のドアを開け、トイレのドアを開けて回るヒカリ。2階を探しても父親の姿はなかった。

玄関を見ると父親の靴がない。普段使っていない自転車を玄関から出して、ヒカリはあてもなく、とりあえず自転車を力いっぱい漕いだ。しばらくして先程すれ違った帰宅部の学生達の背中が見えた。相変わらず3列横に並んで話している。「邪魔だな」

車が来ないことを確認して学生達の背中を追い越した。学生の1人が、ヒカリだと気付いて声をかけようとしたが、そう思った時にはヒカリの姿は小さくなっていた。


切腹特区 4話
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