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探しても父親は見つからない。「こっちじゃねえのか」そう思うとヒカリは折り返して先程来た道を戻る。帰宅部の学生達の姿が見えた。父親を見なかったか聞こうか、聞かまいか、悩みながら近づくと、向こうから声をかけてきた。
「山崎のおじいちゃん、さっき袋川のあそこの橋を渡って行っとったで」
「あ、ありがとう」乾いた喉から一言だけ振り絞って礼を言うと、すぐに橋の方に向かった。「あの時初めに聞いとけばよかった」そう思いながら自転車を漕ぐ。
とぼとぼ歩く父親を見つけて話しかけると「おお、ヒカリ何しとるー?」
「おやじこそ、何で外に出ただ?!」ヒカリは感情的になって大きな声を出す。怒りに満ちた声だった。父親は真剣な眼差しでヒカリを見た後、「えっ?!」と耳に手をあてがいながら言った。どうやら耳が遠く聞き取れなかったらしい。ヒカリは父親の耳元で大きな声で同じことを言った。
「ちょっと職場の人に挨拶しようと思って」
「もう辞めて何年経つと思うだ?!知り合いももうおらんだろうが」
語気を荒げたがヒカリはこれ以上言ってもしょうがないことに気付いてため息をつく。「とりあえず家に帰ろうか」と父親の体を支えた。
2人で帰る途中、遊んでいる小学生の集団とすれ違った。「さっきの見たか?切腹しないんだろ、あそこのジジイ。家族が困っとるって母ちゃんが言っとったで」「しー!聞こえる!」その中の少女が口の前で人差し指を一本立てながら言った。
切腹特区 5話
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切腹特区 5話
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