最近、ヒカリは意識的に外出する時の時間を増やしていた。父親の暴力性が増し、ふと我に返った父親が「もう殺してくれ」と言うようになったからだ。そんなことを言う父親に耐えられなくなり、逃げるように外で時間を潰すようになった。なんなら、何かの拍子に死んでくれたほうが父親にとっても幸せなんじゃないかと強く思うようになっていた。
ヒカリが外出している時にそれは起こった。
「ピンポーン」ヒカリの家のチャイムが大きな音で鳴る。ヒカリの父親がゆっくりした足取りで玄関に向かう。ヒカリの父親は昔の習性で鍵を開けてドアを開いて誰が来たか確認する。スーツ姿の若い男が2人立っていて何かを言っているが聞き取れない。耳に手をあてがって「耳が悪いけえ大きい声で言ってくんさい」と父親は言った。
スーツの男の1人は短めのツーブロックで黒髪、もう1人は少し長めの茶髪だった。
ツーブロックの男はヒカリの父親に近付き大きな声で「保険会社の者です」と言いながら玄関の中に入って来た。
切腹特区 19話
http://sinnichio.blog.jp/archives/1081762942.html